労災の四肢加算 橈骨・尺骨の遠位端部分に行われた骨折手術は2.0倍?1.5倍?
労災保険では手(手関節以下)に第2款 筋骨格系・四肢・体幹の手術を行った場合、健保点数の2.0倍で算定できます。(手以外の四肢は1.5倍)
では、橈骨・尺骨の遠位端部分に行われた骨折手術は2.0倍と1.5倍のどちらでの算定になるでしょうか。
手関節とは?
手関節(しゅかんせつ)は、手首にある関節。橈骨、尺骨、8つの手根骨を含めた10個の骨で構成されており、橈骨手根関節、手根中央関節、下橈尺関節で構成される複関節といわれる。
手関節は前腕(橈骨・尺骨)と手(手根骨)から出来ていて、前腕(橈骨・尺骨)の遠位端部分も手関節といえるようです。
それでは、前腕(橈骨・尺骨)の遠位端部分に行われた骨折手術は2.0倍で算定できるのか、というと実は違うんです。
「医療関係質疑応答集」の12 手術料より
Q16 手(手関節以下)の手術について健保点数の2倍で算定することができるが、手関節から橈・尺骨の遠位端部分に行われた骨折手術に関しては、どのように判断するのか。
A.橈骨・尺骨の遠位端骨折については、手関節(手根部)の中に骨折が及んでいるかどうかで判断するものである。https://healthnet.jp/wp-content/uploads/2016/10/4d88cf15bffdb285c0aafbd8fba2b7b3.pdf
(52ページ)
http://www.joshrc.org/~open/files2015/20150715-001.pdf
(52ページ)
上記を読むと、労災保険において2.0倍で算定できる手関節とは手根骨のことであって、橈骨・尺骨の遠位端部分は含まれないということですよね。
というわけで、手根部に骨折が及ばない橈・尺骨の遠位端部分に行われた骨折手術に関しては、2.0倍で算定することはできません。ただし、1.5倍での算定はできます。
労災で入院中に他医療機関を受診した場合の算定ルール
健康保険では入院中に他院を受診すると、入院基本料が減算されたり他院での算定に制限がありますよね。
しかし、労災保険ではこのルールが適用されないんです。
「医療関係質疑応答集」の13 入院基本料より
Q12 入院中の患者の他医療機関への受診に係る健康保険の取扱いとして、入院している患者が他の保険医療機関で治療を受けた場合には、入院医療機関の入院料等の基本点数を10%、20%又は40%を控除した点数により算定することとなっているが、労災保険において、この取扱いは適用されるのか。
A.労災保険においては、入院中の被災労働者の治療に関して、他医療機関での診療が必要となり、当該入院中の被災労働者が他医療機関を受診した場合(当該入院医療機関にて診療を行うことができない専門的な診療が必要となった場合等のやむを得ない場合に限る。)は、健康保険の取扱いによらず、入院医療機関は入院料の基本点数を控除せず全額算定できる。なお、この場合において、他医療機関は当該診療に係る費用(「医学管理等」、「投薬」、「注射」等)を健康保険の取扱いによらず全額算定できる。
https://healthnet.jp/wp-content/uploads/2016/10/4d88cf15bffdb285c0aafbd8fba2b7b3.pdf
(68ページ)
このように、入院医療機関では入院基本料を減算する必要がなく入院基本料の全額算定が可能です。
また、他医療機関でも診療の算定に制限がなく実施した診療の全額算定が可能となっています。
入院医療機関と他医療機関 両方の立場から思うこと
入院医療機関の立場からすると入院基本料の減算がないので、健康保険の場合と違って収入が減らないのが嬉しいですよね。
そして他医療機関の立場からすると、外来での計算が簡単になるのが有難いです。外来で算定できるものと算定できないものとの確認は結構面倒なんです。その上、算定できないものを実施せざるを得ない場合は、相手方の入院医療機関との協議も必要になってきて大変です。
患者さんにとっては
入院中の他医療機関受診にデメリットがあると、受診や診療を控えることにつながりかねません。
必要な時にデメリットの心配なく他医療機関を受診してもらうことができる労災保険のこのルールの方が、患者さんにとってもメリットがあると思います。
※ちなみに、自賠責保険診療費算定基準(新基準)は労災準拠なので、新基準の方でも同じこのルールが適用されます。(減算等は不要です)
定数超過入院(オーバーベッド)は猶予ルール(「3か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動」)が適用されません
定数超過入院(オーバーベッド)についてあらためて確認したところ、勘違いをしていることに気づきました。
基準を満たさない場合のルールについて、平均在院日数や月平均夜勤時間数と同じように考えていたんです。
頭の中でごっちゃになっていたので整理したいと思います。
1.そもそも定数超過入院(オーバーベッド)とは?
1月間(暦月)の平均入院患者数が、病院では許可病床数の105%以上(有床診療所では許可病床数に3を加えた数以上)になることを定数超過入院(オーバーベッド)と言います。
※平均入院患者数は次の計算式で求めます。
平均入院患者数=月の在院患者延数÷月の日数
定数超過入院(オーバーベッド)に該当すると入院基本料の減算等のペナルティがあります。
2.定数超過入院に該当する場合のペナルティ
(1)入院基本料の減算
・入院基本料の所定点数の100分の90(又は100分の80)に相当する点数になります。
(2)入院基本料等の届出を受理してもらえない。
・入院基本料・特定入院料・入院時食事療養(Ⅰ)・入院時生活療養(Ⅰ)の届出を受理してもらえなくなります。
(3)特定入院料を算定できない。
・特定入院料の基準を満たせなくなるので、変更等の届出が必要になります。
3.許されるのは5パーセント未満のオーバーまで。また、定数超過入院となった翌月からペナルティが課せられる
最初に書いた勘違いというのは、オーバーのパーセンテージと猶予についてです。
平均在院日数や月平均夜勤時間数と同じように、「3か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動」なら猶予されると思っていたんです。
入院患者のオーバーが許されるのは許可病床数の1割までではありません。許可病床数の105%以上のオーバーでアウトです。
また、猶予期間はありません。定数超過入院に該当した月の翌月から、いきなりペナルティが課せられます。
許可病床数の1割以内のオーバーならOKと勘違いしたままだったら、大変なことになっていました。
危ない!
※この記事は医学通信社「診療点数早見表 2016年4月版」1309・1310・1311ページを参照して書きました。
血液型検査〈ABO型、Rh(D)型〉が減点査定
術前検査として実施していた血液型検査〈ABO血液型とRh(D)血液型〉が減点になりました。
D011の1に区分されるABO血液型検査とRh(D)血液型検査はそれぞれ21点なので、合計で42点の減点です。
減点理由は過去にも当院で同じ患者に同じ血液型検査を実施していたからです。
血液型が変わることはほぼないですから、2回以上実施したら減点されるのは当然ですよね。
確認が足りませんでした。
しかし、今回減点された検査は平成29年9月に実施していて、前回は平成28年3月に実施していたので、1年半以上もさかのぼってチェックされていたわけです。
恐るべし。
下船後3月で入院した場合の食事代
船員保険の下船後3月で診療を受ける際に自己負担はないですよね。
下船後3月で入院となった場合も診療に対してはもちろん自己負担はないですが、食事代はどうなるかご存知ですか?
これについて一般財団法人船員保険会のサイトに説明がありました。
12ページの下の方にある入院時食事療養費の部分です。
https://www.sempos.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/kyuhu2010.pdf
●病気・けがで保険医療機関に入院して、食事の給付を受けたとき
●本人(下船後3月の療養)=全額給付となり自己負担はありません。
(※原文の一部を省略)
というわけで、食事療養についても全額給付となるので自己負担はありません。
実際に食事の自己負担なしで保険請求を行ったことがありますが、返戻や査定等はなかったです。
うちで使っているレセコンは自動では食事の自己負担をなしにしてくれなかったので、手入力で修正して保険請求しました!
補足
「船員保険法の第六一条」にも下船後3月で入院した場合に食事の自己負担がない事が書いてあります。
2 入院時食事療養費の額は、当該食事療養につき健康保険法第八十五条第二項の規定による厚生労働大臣が定める基準の例により算定した費用の額(その額が現に当該食事療養に要した費用の額を超えるときは、当該現に食事療養に要した費用の額。以下「入院時食事療養費算定額」という。)から食事療養標準負担額(同項に規定する食事療養標準負担額をいう。以下同じ。)を控除した額とする。
3 前項の規定にかかわらず、下船後の療養補償に相当する入院時食事療養費の額については、入院時食事療養費算定額とする。
2項では入院時食事療養費の額=入院時食事療養費算定額-食事療養標準負担額
としています。
しかし、3項では下船後の療養補償(下船後3月) の場合は入院時食事療養費の額=入院時食事療養費算定額(食事に係る費用を全額給付する)としています。
そのため下船後3月の場合は食事療養標準負担額(食事の自己負担額)は0円(自己負担なし)になります。
指ごとに算定できる手術
手術の通則14・通知(4)に「指に係る同一手術野の範囲と算定方法について」記載があります。
ここを何回も読むんですけど難しい!
まずはここにある指ごとに算定できる手術を整理したいと思います。
目次
同一手術野の通則
手術 通則14より
14 同一手術野又は同一病巣につき、2以上の手術を同時に行った場合の費用の算定は、主たる 手術の所定点数のみにより算定する。
通則14にあるように、原則として同一手術野に2以上の手術を同時に行っても、主たる(1つの)手術しか算定できません。
しかし、第1指から第5指までを別の手術野とする手術があるんです。
第1指から第5指までを別の手術野とするということは、(指ごとに手術野が別になるので)指ごとに算定できることになります。
第1指から第5指までを別の手術野とする手術(指ごとに算定できる手術)
第1指から第5指までを別の手術野とする手術(指ごとに算定できる手術)は(イ)(ロ)(ハ)の3つのグループに分かれています。
(イ)第1指から第5指まで(中手部・中足部若しくは中手骨・中足骨を含む。)のそれぞれを同一手術野とする手術
(※指全体を同一手術野とするのではなく指のそれぞれを同一手術野とするとあります。そのため指ごとに別の手術野となり指ごとに算定できます。)
- K028 腱鞘切開術(関節鏡下によるものを含む。)
- K034 腱切離・切除術(関節鏡下によるものを含む。)
- K035 腱剥離術(関節鏡下によるものを含む。)
- K037 腱縫合術
- K038 腱延長術
- K039 腱移植術(人工腱形成術を含む。)の「1」指(手、足)
- K040 腱移行術の「1」指(手、足)
- K040-2 指伸筋腱脱臼観血的整復術
- K054 骨切り術の「3」中の指(手、足)(関節リウマチの患者 に対し、関節温存を前提として中足骨短縮骨切り術を行った場合に限る。)
(ロ) 第1指から第5指まで(中手部・中足部若しくは中手骨・中足骨を含まない。) のそれぞれを同一手術野とする手術(ただし、合指症手術にあっては各指間のそれぞれを同一手術野とする。)
(※指全体を同一手術野とするのではなく指(各指間)のそれぞれを同一手術野とするとあります。そのため指(各指間)ごとに別の手術野となり指(各指間)ごとに算定できます)
- K089 爪甲除去術
- K090 ひょう疽手術
- K091 陥入爪手術
- K099 指瘢痕拘縮手術
- K100 多指症手術
- K101 合指症手術
- K102 巨指症手術
- K103 屈指症手術、斜指症手術
- 第1節手術料の項で「指(手、足)」と規定されている手術
(K039腱移植術(人工腱形成術を含む。)の「1」指(手、足)、
K040腱移行術の「1」指(手、足)、
K045骨折経皮的鋼線刺入固 定術の「3」中の指(手、足)、
K046骨折観血的手術の「3」中 の指(手、足)、
K054骨切り術の「3」中の指(手、足)(関節 リウマチの患者に対し、関節温存を前提として中足骨短縮骨切り術を行った場合に 限る。)、
K063関節脱臼観血的整復術の「3」中の指(手、足)、
K073関節内骨折観血的手術の「3」中の指(手、足)、
K080関節形成手術の「3」中の指(手、足))及び
K082人工関節 置換術の「3」中の指(手、足)を除く。)
最初に読んだ時に「除く」とある手術(K039の「1」~K082の「3」の手術)は指ごとに算定できないのかな?と思いました。
しかし良く読んでみると「除く」とは(ロ) のグループから除くという意味でした。
「除く」とある手術は(ロ) のグループには入りませんが、(イ)か(ハ)のグループに入っているので指ごとに算定できます。
(ハ) 同一指内の骨及び関節(中手部・中足部若しくは中手骨・中足骨を含む。)のそれぞれを同一手術野とする手術
(※(ハ) の手術は指ごとに算定できるだけではありません。同一指内の骨及び関節のそれぞれを同一手術野とするとあります。そのため同一指内の骨及び関節ごとに別の手術野となり同一指内の骨及び関節ごとに算定できます。)
- K045 骨折経皮的鋼線刺入固定術の「3」中の指(手、足)
- K046 骨折観血的手術の「3」中の指(手、足)
- K063 関節脱臼観血的整復術の「3」中の指(手、足)
- K073 関節内骨折観血的手術の「3」中の指(手、足)
- K078 観血的関節固定術の「3」中の指(手、足)
- K080 関節形成手術の「3」中の指(手、足)
- K082 人工関節置換術の「3」中の指(手、足)
- K082-3 人工関節再置換術の「3」中の指(手、足)
例えば・・・①
K000 創傷処理やK044 骨折非観血的整復術は(イ)(ロ)(ハ)のどのグループにも入ってません。つまり、指ごとに算定できる手術ではありません。
右手の第2指、第3指、第4指に同時にK000 創傷処理(縫合)〈又はK044 骨折非観血的整復術(徒手整復)〉を実施したとしても、創傷処理(又は骨折非観血的整復術)×1回でしか算定できません。
しかし、(イ)のグループに入っているK028 腱鞘切開術を右手の第2指、第3指、第4指に同時に実施した場合は腱鞘切開術×3回で算定できます。
例えば・・・②
指ごとに算定できる手術の「指」とは手の指のことだけではありません。
(イ)(ロ)(ハ)のグループ分けに中足部や中足骨が使われていることからも分かるように、足の指についても指ごとに算定できる手術のルールが適用されます。
ですから、(ハ)のグループに入っているK046骨折観血的手術を右足の第4指(趾)、第5指(趾)に同時に実施した場合は骨折観血的手術×2回で算定できます。
退院時に在宅自己注射指導管理料は算定できる?算定できない?
退院時に在宅自己注射指導管理料は算定できます。
実際に退院時で算定して査定されたこともないんですが、初めて算定する時はすごく迷いました。
点数表に算定できないように読めてしまう部分があったからなんです。
迷いの原因となった部分
C101 在宅自己注射指導管理料
注
1 別に厚生労働大臣が定める注射薬の自己注射を行っている入院中の患者以外の患者に対して、自己注射に関する指導管理を行った場合に算定する。ただし、同 一月に第2章第6部の通則6に規定する外来化学療法加算を算定している患者については、当該管理料を算定できない。
「入院中の患者以外の 患者に対して」とあるので、退院時には算定できないのでは?と思ってしまったんです。
しかし、第1款 在宅療養指導管理料の通則を読むと、これを覆すことが書いてありました。
在宅療養指導管理料 通則より
4 入院中の患者に対して退院時に本款各区分に掲げる在宅療養指導管理料を算定すべき指導管理を行った場合においては、各区分の規定にかかわらず、当該退院の日に所定点数を算定できる。この場合において、当該退院した患者に対して行った指導管理(当該退院した日の属する月に行ったものに限る。)の費用は算定しない。
この通則には「各区分の規定にかかわらず」とあるんです。
ということは、在宅自己注射指導管理料の規定に「入院中の患者以外の患者に対して」とあっても入院中の患者に対して退院時には算定できるということですよね。
通則も必読
通則もあわせて読むと「在宅自己注射指導管理料は入院中に算定できないが、ただし退院時には算定できる。」という規定だということが分かります。
点数算定を理解するためには、該当区分の規定だけでなく通則もちゃんと読まないといけないですね。